ボーンコレクター 02-02

 電車を降りて鼠の通路のような駅構内をクルクルと回り、荒れ地同然の品川港南口を出て草原の中の一本道を遠い街灯りに向かって歩く。草原の中には劇団四季の仮設劇場がポツンと立ち、それ以外は何もなくて、本当にここは東京なのかと思わず空を見上げると、星はひとつも見当たらなくて、ああ、やっぱり東京だった、と少し安心する。そしてくらくらする頭を抱えながらボーンコレクターは考える。しかし一体、ボクの住んでいたマンションはこんな変な場所だったっけ? 不意に何だか違うような気がして、言いようもない不安が彼に押し寄せる。ふと見ると道の途中に公衆電話のボックスがあって、そのきれいに磨かれた透明のプラスチックの向こう側に緑色の電話機と黄色い電話帳が見える。彼はそれに足を踏み入れ、千切れ千切れの記憶を頼りに受話器を持ち上げて考える。電話をかけなくちゃいけないんだ。そしてポケットに手を突っ込んで十円玉を三枚取り出し、電話機にガチャガチャと入れてから、ピポパと相手の番号を押す。「もしもし」と女の声がする。「ああ、ボクだけれど、今晩泊めてくれないか?」「どうしたの?」「それがよくわからないんだ。変なカプセルを飲んでから、少し記憶が飛んでいるみたいだ」「いいわよ。私の部屋、わかる?」「品川、じゃなかったっけ?」「違うわ。下北沢よ」嗚呼、何たる不手際。ボーンコレクターはガクリと肩を落とし受話器を置いた。今夜は電話ボックスで寝よう。彼は電話帳を地面に敷いて、その上に座ってから蒼いカプセルを取り出した。「これを飲むと、きっともとの世界に戻れるさ」