01 邪教真言立川流 01-07

「狐と姫様を見つけたぞ。と兵たちは怒鳴り声をあげながら洞窟を取り囲みました。城からの追っ手よな。と荼枳尼は兵たちを睨み付けました。城主様のご命令です。姫様、すみやかにお城にお戻りください。狐は我々が退治します。侍大将が一歩前に踏み出して荼枳尼にそう口上を述べました。荼枳尼は侍大将を睨み付けました。妾はこの狐殿の妻じゃ。帰るわけにはいかんし、亭主を討たせるわけにもいかん。そう言って髪の毛を逆立てて風を起こしました。轟々と音を立て山中が揺れました。兵たちは飛ばされまいと岩や木にしがみつきました。狐はその暴風の中をまるで何事もないかのように飛び回り、兵たちの首を食いちぎって回りました。これはどうもいかん、ひとまず兵を引こう。侍大将は采配を振り回し大声で叫びました。引け引け、ひとまずあの岩の蔭まで兵を引け。荒れ狂う風と狐の襲撃をかわしながら兵たちは命からがら岩陰に隠れました。岩陰に隠れながらも数人の兵が狐に向かって矢を放ちました。ほとんどの矢は風に飛ばされ、あらぬ方に消えてきましたが、どういう塩梅か一本の矢が真っすぐ洞窟に向かって飛び、狐ではなく荼枳尼の胸を貫きました。荼枳尼はギャアと叫んでその場に倒れ、すると首に下げていた数珠の紐がプチンと切れて、九つの玉がそこから四方八方にバラバラと飛び散りましたた。おのれ貴様ら、いつかすべて呪い殺してやるからな。荼枳尼の亡骸を口にくわえて狐はその場を去ろうとしました。そこにもう一本、真っすぐに飛んだ矢が狐の背を射抜きました。狐は荼枳尼を咥えたまま深い谷底に落ちていきました」