01 邪教真言立川流 01-05

「白い狐に乗った美しい女が村の子供をさらっていく、なんて少し猟奇的で浪漫的じゃありませんか?」と日野資朝は尊治親王をチラリと見て言った。

「もちろん女は子供を暗い洞窟に連れこんで、生き血をしぼって髑髏の盃に注いで呑み、その肉をムシャムシャと食べるんですよ。お姫様はもう人間ではなく荼枳尼、夜叉の眷属になったのだから当然のことでしょう」

 尊治親王は黙ってうつむいて資朝の話を聞いていた。資朝は調子に乗って身振り手振りを交えて話した。

「山に荼枳尼が住むという噂はやがて近隣諸国の人たちも知るようになりましたよ。当然ですね、子供たちがもう何人もさらわれて、食べられているのですから。さあ、これは由々しき事態であると城の方でも当然問題になります。急ぎ山狩りをせねばなるまいと、そういう話になりました。ただ、新しい城主は荼枳尼になったお姫様の弟で、昔の優しかった姉の面影を忘れられずにいました。なので深く悩んだ末、家臣たちに言いました。山狩りは行いましょう。ただし姉を殺してはなりません。あくまで討ち取るのは狐だけ。狐さえ退治すれば、姉はもとの姉に戻るはず。きっとそのように頼みますよ。そう念を押したのです。家臣たちは顔を見合わせ、まあそれも一理あるかもしれないと納得し、お姫様は助けようと、そういうことに決まりました。話が決まればあとは決行あるのみです。準備は着々と進められ、易学の学者が吉日を選び、一人の武将が山狩りの全軍を率いる侍大将に選ばれました。そして侍大将は意気揚々と城門をくぐり隊伍を整えて山狩りに向かったのでした」