01 邪教真言立川流 01-04

「九死に一生を得た城主はたいそう喜びましたね。狐を高座に祀り上げて下にも置かぬもてなしよう、大量の稲荷寿司を捧げて大いに酒も飲ませました。狐もしばらくはそれで満足していたのですが何日かするうちに不信に思うようになりました。というのは、戦さが終わった次の日から娘の姿が屋敷のどこにも見あたらなくなったのです。はて娘はどこに行ったのか、と狐は神通力で城主の心を読みました。するとなんと、娘を狐に嫁にやるくらいなら家臣にくれてやれ、と城主は急ぎ縁談をまとめて、今日その嫁入りの行列が家臣の屋敷に向かって出たというのです。おのれ、騙したな、と狐は当然怒ります。真っ白い毛を逆立てて娘の花嫁行列に襲い掛かり、武装した家来たちを蹴散らして、娘をさらってしまいました。そして山の洞窟にこもり、鹿や鳥、魚を娘の前に供えて話しかけました。お前とワシは今日より夫婦だ。これはささやかではあるが婚礼のご馳走だ。ほかに何か望むものはあるか? 娘は答えて言いました。私は私をお前の嫁にくれてやろうと言った父が憎い。父の心臓をここに持ってきておくれ。狐は黙って頷いて、さっと山から駆け下りて行きました。城には娘の婿になる予定だった家臣を始め、多くの兵たちが武装して、山狩りの準備をしていました。狐は行きがけの駄賃としてまずその家臣の首を食いちぎったあと、兵たちを金縛りにして悠々と城内に入りました。そして城主の心臓をえぐり、それを洞窟に持ち帰りました。娘はニコニコと笑い、血の滴るその心臓を食べました。そしてその日から荼枳尼となって白狐に乗って里を襲うようになりました」