01 邪教真言立川流 01-03

「ここで立ち話も何ですので」と日野資朝は尊治親王を近くの寺院の東屋に招き入れ、親王を席につかせてから、こともあろうか自分もその斜め前に座り、親王が咎める隙も与えず、滔々と話し出した。

「伏見に通称髑髏寺という寺院がありまして、そに文観上人という一風変わった僧がいるのです。もとは南都の興福寺で修行をし、天台宗から法相宗まで、様々な仏法を学んだのでございますが、ある時不思議な夢を見まして。というのが、まあ夢の話なのでたわいもないのでございますが、さる城の城主が敵方と戦さをしたのですが、敵は多勢に無勢で意気盛ん。とうとう味方は城を囲まれて、兵糧攻めにあって、明日の食料も食いつくし、城内皆討ち死にするしかなかろうとそんな状態に陥ったんですな。そこにどこから迷い込んだか一匹の大きな白い狐がやってきて、こう言ったんですよ。もしお前の娘をワシの嫁にくれるなら敵の大将の首を取ってきてやろう。城主は少し悩みましたが、背に腹は替えられません。わかった、敵の城主の首を持ってきてくれるなら、お前の望み、かなえてやろう。それを聞いて、狐は喜んで駆けていきましたね。まるで飛ぶように敵兵たちの間をすり抜けて、なんと本陣にいた大将の首をひと噛みで食いちぎって、城に持ち帰ってきたのです。味方も驚いたけれど敵はもっと驚きましたね。大将が死んだってんで総崩れです。それまでの形勢が一気に逆転、十重二十重に城を取り囲んでいた軍勢は、すべて逃げ帰っていって人っ子一人いなくなった。一気に潮が引くようにいなくなってしまったのです」