1990-1920 ニューオリンズ 04
二十世紀はジャズの世紀だっていうけれど、もっとも象徴的な出来事のひとつが一九〇一年にサッチモが生まれたってことじゃないかな? サッチモ、つまりルイ・アームストロング。知らない奴はいないだろ? コルネットとだみ声で半世紀以上もジャズ界を牽引してきた天才。彼の誕生こそまさにジャズの誕生で、ジャズの歴史はこの時から、赤ん坊のサッチモとともにゆっくり歩みだしたってわけさ。
サッチモがよちよち歩きを始めた頃と言えば、先ほども言った通りバディ・ボールデンがコルネットを吹き散らかして精神病院にぶち込まれたって頃で、まさにジャズの黎明期。ニューオリンズのアングラ時代。混沌とした泥濘の中から、何かがブクブクとあぶくのように湧き出して、形を成そうとしていた時代。サッチモはそんな時代の申し子のように、この世に生を受けたんだ。しかし、初めはひどかったね。生まれた途端に父は逃げ出し、十六歳の母にはとても子育ては難しく、結局祖母に引き取られたんだけれど、当然のように不良になって、十一歳には少年院に放り込まれて、ってね。まさにドロドロのアングラ時代。でも、それが転機になったね。少年院で彼はコルネットと出会うんだ。コルネットと出会って彼はメキメキ頭角を現してきたよ。バンドリーダーに抜擢されて、キッド・オリーに目をかけられて、フェイト・マラブルにスカウトされて、ミシシッピ川を上下する船の中で演奏をするようになって、そこで生涯の師匠キング・オリヴァーと出会って。サッチモの十代は、まさに泥濘から這い出るジャズそのものなのさ。