ボーンコレクター 01-10

 オホゲツヒメは葉っぱを乗せた皿をテーブルに置いた。それから壁に掛けていた柄杓を外し、それで水瓶の水を汲んで瓢箪に注ぎ入れた。

「さあ、いよいよだぞ」と覗き見をしていた中の、うっかり者が小声で言った。一同は慌てて「しっ」と、口の先に手をやって睨んだ。しまった、という顔で彼は首をすくめた。その気配を感じたものか、オホゲツヒメはテーブルからすっと顔を上げ、鋭い目であたりを伺った。皆はじっと身を伏せるようにして、黙ったまま固まった。オホゲツヒメはしばらくキョロキョロとあたりを見まわし、それから天幕の四隅を歩いた。「誰かいるのかしら?」と首を傾げてつぶやいて、天幕の裾に手をかけた。「ああ、見つかってしまう」と、皆はただぎゅっと目をつむった。

 その時、テーブルの下から一匹のネズミがひょいと飛び出し「チュッ」と鳴いた。そして「あら」と振り向いたオホゲツヒメの目の前をチャチャチャと駆けて外に出て行った。「ネズミだったのね」とオオゲツヒメ、ホッとした顔で天幕から手を放し、テーブルへと戻った。

 さて、小さな騒動はあったものの店を構えているからには饅頭を店頭に出さねばならない。外でお客さんが待っている。オホゲツヒメは気を取り直すため大きく深呼吸をした。そしておもむろに、まず葉っぱの乗った皿に「ふう」と息を吹きかけた。するとなんと、葉っぱは蒸し立ての、ホカホカの饅頭に変わっていた。続いて瓢箪の内を覗きこみ、水にふうと息を吹きかけた。水はたちまち芳醇なサル酒と変わっていた。