03_生臭坊主・永超 01

 南都興福寺の学僧に永超僧都という大変なお坊さんがいた。僧侶というものは普通、不殺生戒を守って魚や肉は食さないものだが、永超僧都は「魚がないと食事をしない」というようなけったいな僧侶であった。その永超僧都があるとき朝廷に呼ばれて、長い間、魚を食べることが出来なかった。朝廷からの任務が終わり奈良を目指して帰る道中、永超僧都はもう魚が食べたくて食べたくて、思わず涙がこぼれるほどであった。弟子たちは永超僧都を哀れに思い、奈島の丈六堂で休憩をとったとき、魚料理を求めて付近の民家を歩き回った。しかし多くの人たちは眉をひそめ、「坊さんに魚料理を出すなんて、そんなことできますかいな」、「あんたら偽坊主ちゃいますのん?」と言って塩をまいた。弟子たちはそれでも歩き回り、とうとう残るは村のはずれのボロ小屋だけとなった。「こんなボロ小屋に住んでいる人じゃ期待もできまいのう」と弟子たちは嘆いたが、「それでもいちおう声だけはかけてみんとのう」と気を取り直して呼びかけた。「すみませぬが魚料理を作ってくださいませんかのう」中から女が出てきて言った。「それはそれはお可哀そうなことですのう。見ての通りの貧乏暮らしですが、何とか魚を取ってまいりましょう」女は亭主を伴って木津川で石をさらい、フナやナマズを数匹とって、泥を吐かせて網で焼いた。「こんなものしか出来ませぬが、どうぞこれを僧都様に召し上がっていただきましょう」弟子たちは喜んでそれを持って宿屋に帰った。永超僧都は焼き魚を見た途端、まるで呑むようにそれを食し「ああ、うまいうまい」と随喜の涙を流した。