02 平家の末裔

 雪の苗字。『貫城』と書いてツラノキと呼ぶ。なかなか珍しい苗字なのでほぼ初対面で呼んでもらえることはない。「この姓は平家の流れである」と、祖母は言うけれど眉唾ものだと雪は思っている。どうせ明治になってから先祖の誰かが適当に付けたのだ。雪はそう思っている。物の本によると貫木と書いてカンギやヌキギという人は関東の方にいるらしい。しかし貫と書いてツラと呼ぶのは、まずなさそうである。祖母の言うところによると、貫城家のルーツをたどれば平家に行き着き、さらには桓武天皇へと行き着いて、と、そういうことになるけれど、桓武天皇っていったい誰? 一体いつの人だろう。何代遡ればそこに到着するのだろう。平安時代? そう平安時代よね、と雪は遠くその時代を想像しようとしたけれど、いまひとつイメージがわいてこない。牛車に十二単に源氏物語。春はあけぼの、何だっけ? 思考はどこまでもこんがらがって、雪は自分が思考することに適していない人間ではないかと思う。何も考えないでボンヤリ日向ぼっこをして、それで一日過ごせればそれはとても幸せだ。それで一生が過ぎ去れば。否々、それじゃあんまりだ。せっかくこの世に生を受けたんだから何かを成し遂げる偉い人になったほうがいいような気もする。そう、自分の苗字のように何かを貫き通して。

「ユキッペの苗字の貫城って、なんやカッコええなあ」と、いつか涼太郎が言ったことがある。涼太郎の苗字は土左とすこぶる簡単で小学一年生の時に習った漢字で書けて、当時は羨ましく思ったけれど、なるほど今は土左より貫城のほうが画数も多いし良い気がする。