02_河原院の怪異 01-05
「ご安心なされよ、上皇様。あなたは前世で善い行いをされたのでこの世で天皇になられたお方。気をしっかり持たれるがよかろう」と浄蔵大僧侶は言った。「たとえオカマを掘られても命に別状なかったのだから、神仏が上皇様をお守りしたということですよ。その証拠に河原院の扉をご覧ください。刀傷があるでしょう? あれは守護神が源融と戦って、その幽霊を追い込んだ痕跡なのですよ」大僧侶に励まされ、上皇と褒子は気を取り直した。そして二人は改めて婚礼をしたのち、河原院に住むようになった。そののち褒子は京極御息所と呼ばれるようになり、口さがない京雀たちは、彼女をまるでアイドルか女神のように噂するようになった。京極御息所は河原院でサロンを開き、多くの親王や公家を招いて和歌の大会などを開いた。そうして招かれる客の中に陽成上皇の皇子、元良親王もいた。元良親王は京極御息所の噂を聞いて姿を眺め、すっかりほれ込んで夜這いを掛けた。そしてよしみを通じたのち「わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ」という和歌を詠んだ。百人一首にも取り上げられたこの歌は、京極御息所に送ったもである。と、まあともかくアイドル京極御息所は河原院でちやほやされながら奔放な性生活を送ったようであるが、その相手の中には源融の幽霊もいたかもしれない。いや、彼女が河原院に暮らしたからには、その幽霊がいない方が不自然であろう。幽霊との情交が忘れられなかったため、彼女は河原院に住んだのかも知れない。晩年は少し哀れな様子だったようで、その最後は誰も知らない。というところで、とっぴんぱらりのぷ。