01_バロネット卿 01-12
「預けるとどうなります?」「そのお金を担保に、これから落ちる株を、今の価格で売る権利を借りる」「売る権利を借りる?」「ああ、そうじゃよ。売る権利を借りて、売っぱらうんじゃ」「そうすると、どうなるのです?」「その株が安くなった時に株を買い戻して権利を返せば、権利はチャラになり実利だけが残る」甚八はそう言って矢立を取り出し、そこにあった紙切れに1000円と書いた。「例えば今日、この紙切れが1000円で取引されているとしよう。だけどお前さんはこの紙切れが本当に1000円もすると思えない、とする。じゃあ、どうする? 普通の商品なら買わないだけだが株っていうやつは逆に売ることもできるんじゃ」
「持っていなくても?」
「そう、持っていなくても。これは空売りといって持っていない株を持っている人から借りて売るという戦法だ。例えばワシがこの株の持ち主だとしよう。お前さんはそれを一日いくら、例えば一日一〇円で借りる。そして市場で売る。君の手元には一〇〇〇円が入る。その一日後、例えばこの一〇〇〇円株が五〇〇円まで下落して取引されだしたとする。君は一〇〇〇円株を五〇〇円で買い戻す。そうするとどうだ、君の手元には五〇〇円が残るじゃろう? その五〇〇円から株を売る権利と二日分の借り賃二〇円を返済すれば、さあどうだい? 四八〇円がまるまる儲けとして残るじゃないか。持っていない株を売る権利を借りて株を売って、安くなったら買い戻して、権利を返してハイおしまい。手元には儲けが残るって寸法だ」