01 記念写真

「こんなはずじゃなかった」と貫城雪はふてくされていた。本来なら東京にある大学付属の私立高校に入学し、そこで青春を謳歌するのが雪の人生のはずだった。なのに実際、蓋を開けると。入試にすべって田舎の公立、それもあまり偏差値の高くない、まったく呑気な学校に通うことになって。「ああ、こんなはずじゃなかった」と雪はふてくされていた。満開の桜も入学式も、新しい制服も賑やかな同級生たちも雪にはまったく面白くなかった。こんな学校で友達なんか作る気にもなれない。入学式の会場だった体育館から校舎に向かう坂の途中、真っ青な空をにらみつけて「私は孤高の人になる。誰とも話さず、誰とも仲良くせず、凛とした威厳でクラスメイトを圧倒する存在になってやる」と、雪はブツクサつぶやいた。「あれ? 雪、帰らんのん?」と母が涼太郎のお母さんと一緒に体育館から出てきて声をかけた。雪は横目で母を見て「帰る」とそっけなく言った。「また雪ちゃんと一緒に学校行けるんね」と涼太郎のお母さんは嬉しそうに言った。「うん」と雪はぶっきらぼうに返事をし、そっぽを向いた。悪いかなとは思ったけれど、今は愛想よくなんて振る舞えない。

 と、そこに「おお、母ちゃん。探したで」と涼太郎が手を振りながら大股でやってきた。そして「ユキッペ。また一緒やな。よろしくな」と満面の笑顔でそう言って、「おばちゃんも一緒に記念写真撮らへん?」とインスタントカメラをポケットから出した。満開の桜の下、四人は並んで写真を撮ったけれど雪だけは頬を膨らませ、何だかへんちくりんな顔になってしまった。