ボーンコレクター 01-01
彼はボーンコレクター。骨骨研究所の研究員で、毎日骨を拾い集める。収集した骨の数は七万四千五百六十二本。韃靼人の頭蓋骨からシュメル人の小骨まで様々な骨を拾い集めて陳列棚に並べている。そうこうしているとやがて奥の所長室から骨川筋ェ門が現れ、綺麗に並んだ骨たちをさも満足げに眺め、「古代において骨というものは人類の大切な資源であった」と、そんな演説を始める。所長曰く、「人類が二本足で歩行を始めた頃、彼らは木や石と同様に、獲物から得た骨を便利な道具に加工していた。すなわち石器時代が始まる以前に骨角器時代があったはずだ」云々。「骨角器時代」、それの存在を証明するのが骨川所長の生きがいで、なるほどそれは確かにあり得たかも知れない、と彼も思う。しかし彼はボーンコレクター、骨なら愛してやまないが、考古学にはまるで興味もなかったので、余計なことは言わない。語りえぬものについては、沈黙せねばならない、とウィトゲンシュタインも言っている。そんなこんなを考えながら演説を、いつもぼんやりと聞いている。理想家で夢想家の所長は見たこともない大昔のことをいつも嬉々として話す。太古の骨は道具となり武器となり、やがて装飾品となる。首飾り、腕輪、冠、等々。世界各地の部族たちは骨の装飾品を身にまとい、色彩ゆたかな紋様の盾と矛を両手にもって、派手な武闘の舞をまう。カチカチと鳴り響く骨の音。激しい太鼓の太古のリズム。燃え盛る炎に女たちの祈り。強い魔酒にもうもうと立ち込める煙。笑いの饗宴、酔いどれの幻影、興奮に陶酔、肉の快楽。そしてその内に秘める骨、骨、骨。やがて長い年月が過ぎ肉体も内臓も腐敗して、やがて残された骨だけが、今はショーケースの中、静かに鎮座する。