1900-1920 ニューオリンズ 01

 二十世紀が始まった年、奴はコルネットひとつだけ持ってニューオリンズに迷い込んできたんだ。それがまあ言えばジャズの誕生というやつでね。マーチにゴスペル、ラグタイムにブルースと今まであった音楽をごちゃまぜにした奴の感覚は、これまで世界に存在しなかった斬新なスタイルだったってわけ。まあ昨今のジャズを知るもんからすりゃすでに古い音かも知れないがね、当時は画期的な音楽だったのさ。オレたちニューオリンズの小僧っこどもがたちまち奴の音楽に魅了されたってのも無理らしからぬ話じゃないか。ほんと、奴の音楽は新しくて凶暴で、マジすさまじかったんだぜ? 即興と狂気のハーモニー、奴がひとたびステージに立てば次に何がおこるのか誰も全く予想だにつかない。打楽器にクラリネット、トロンボーンと、バンドが織りなす怪奇複雑なシンコペーションの嵐に奴のコルネットが乗っかってきて。そう、今でもあの頃のことを思うと胸が熱くなるんだ。ほんと、ホットな音楽だった。奴はニューオリンズに流れて来るなり繁華街の人気者になったけれれど、それも当然の成り行きってもんさ。奴は毎晩、街のどこかで素敵な即興を吹き散らし、人々を沸かせたんだぜ。奴は英雄で、奴は神だった。オレたちニューオリンズのガキんちょは、みんな奴になりたいと思ってたんだ。奴みたいな英雄になれたらどんなに幸せだろうってね。また奴の吹くコルネットはものすごい爆音でね。奴がひとたびコルネットを吹けば一マイル先まで聞こえたもんだ。これも強烈だったね。オレたち毎晩、街のどこかでそいつを聞いてたのさ。