1900-1920 ニューオリンズ 02
ある綺麗な月の夜、街はずれの工場跡でオレたち葉っぱを決めてたんだ。壁にもたれて紫煙をくゆらせ、うだうだととりとめのない会話なんか交わしながらさ。そこに奴のコルネットが聞こえてきたんだ。相変わらずのラグタイムとブルース。「バディ・ボールデンだ」って誰かが言ったね。しばらくぼんやり聞いていたんだけれど、突然仲間の一人がさ、「臭いケツ、臭いケツ」と大声で叫んで、パンツを脱いで踊りだしやがった。オレたち全員、大爆笑さ。すぐに「臭いケツ、臭いケツ」と連呼して、遅れをとるまじと言った感じで、みんなすぐさまパンツを脱いでフルチンで腹をこすり合わせて踊ったよ。バディの音楽はファンキーなんだ。黒人のリズムなんだよ。汗にまみれて踊り狂って。あのバディの音楽がホットなサウンド、のちのディキシーランドジャズを育てたんだ。キング・オリバーにフレディ・ケッパード、バンク・ジョンソン。あの時代のニューオリンズでバディに影響されないミュージシャンはいなかったね。のちにサッチモも言っているよ。「バディは一匹狼の天才だった」って。とにかくバディは名前が売れて、いろんな噂もたったよね。本職は散髪屋だとかカストリ雑誌の出版者だとか。みんなデマだけどね。ともかく噂が交錯しあって、オレたち面白ければ事実なんてどうでもよかったんだ。そう言えばバディの曲が蓄音機で録音されたという噂もあったね。トロンボーン奏者のウィニー・コーニッツが言ってたから少しは信憑性もありそうだけど。まあ噂はあくまで噂かな。実際のところ現物が残っていないから何とも言えないよね。