1900-1920 ニューオリンズ 03
バディが街から消えたのは一九〇七年。奴がちょうど三十歳の時で、まさに人気絶頂だったよ。毎日あちこちパレードに繰り出し、繁華街を駆け回って演奏し、週のうち二三日は寝る時間もなかったってさ。それで弱った肉体を強い酒で紛らわそうとするうち、とうとうアルコール中毒でぶっ倒れ、精神がおかしくなってしまったってさ。本当は奴の人気を憎んだコーカソイドの奴らが無理に病院に放り込んだのかも知れないけれど、何せちょっとイカレた女の子たちには滅茶滅茶もてる奴だったからね。嫉妬だって買おうってもんさ。まあともかく、今となっちゃすべて藪の中。真相なんて誰にもわかりゃしない。ただバディは忽然と、ニューオリンズの街の中から消えていなくなり、それっきり誰も奴を見ちゃいないってだけ。プレコックス認知症とかっていう病気でジャクソンのルイジアナ州立精神病院に収容されたって、風のうわさで聞いたけれど、ニグロイドがこうなっちゃ、もうおしまいさ。そのまま誰も知らない間に死亡して、誰も知らない間に埋葬されて。死因は動脈硬化だって一応死亡診断書に書いてあるけれど、まあ、病院に収監された時点でバディの人生は終わったようなもんだから、そこらへん、もうどうでもいいよね。
それでオレたち、またバディみたいな新しい音楽を聞かせてくれる奴を探して、夜を徘徊してまわったよ。キング・オリヴァーはカッコよかったけど、バディのような強烈な音で押しまくるというよりむしろミュートを駆使した繊細な奏法を得意としていたり、曲をたくさん作ったり、と、インテリな雰囲気だったよね。