01_浦島子伝 01-05

「あなた最近、とても疲れていらっしゃるわ」と女が言う。「そんなはずはないんだけれど」とボクは言う。「でもあなた、日ごとに痩せて骨ばってしまい、このままでは生きた骸骨ですわ。表むきには楽しんでいる風に見せておいでですが、心の中はもやもやと憂鬱の霧に包まれておいでのようですわ。きっと故郷を懐かしんでおられるのね」女は寂しげにそうつぶやく。「そんなことはないさ。毎日おいしいご馳走をよばれて、露のような酒をいただき、これで満足せぬ者などいるであろうか」ボクは彼女の肩に薄絹をかけながら、優しく微笑みかける。「いえいえ、あなたは望郷の念にとらわれて、もうつぶれてしまいそうなほど。一度故郷に帰られるのがよろしいかと存じます」「君がそこまで言うのなら、ああ、ボクは一度故郷に帰ることにいたしましょう」

 かくしてボクは一度その不思議な御殿を離れてふるさとに帰ることにした。この御殿とはもちろんのちに言う龍宮城で彼女は乙姫様にあたる。

 帰り際に彼女はもちろん箱を一つ、ボクの手に持たせる。五色の錦繍で包まれた金や玉の紐で括られたその箱、言わずと知れた玉手箱。

「もし今一度、私に会いたいと思われるなら、決して箱を開けては駄目ですよ」

 開けていけない箱なら渡してもらわないほうがいいのに、と思いつつボクは彼女に手を振って「さようなら、愛しい人」とつぶやく。そして気が付くと船に乗ったはずが、いつの間にかふるさと、澄江の浦。と、話はここでおしまい。とっぴんぱらりのぷ。