ボーンコレクター 01-04
いつとはわからないままに、彼は深い森の中をふらふら彷徨い歩いていた。いやこれは森というより人類未踏の大密林。テラ・インコグニタ、ダイ・ウォー・クー。新宿の街はいづかたともなく消え失せて、あたりは一面、緑陰幽草の大樹海。不規則に立ち並ぶ大きな樹木は空をおおうほどに葉を茂らせ、あたりはまるで昼夜の別もないほどに薄気味悪いほど仄暗い。さらにそれら、それぞれの木々は、それぞれがそれぞれに奇怪な寄生樹に絡みつかれて。寄生樹たちは、樹皮を締め付け、樹液をすすり、やがて宿主そのものを無情に立ち腐らせてゆくのであろう。飛び交う蚊蝱は雲霧の如く視界をさえぎり、地中より浮き出た巨大な木の根はうねうねと艶めかしく這いまわり。そう、あの緑がかった白い木の根の幾多も絡み合った妖しい姿態は、まるで無造作に抱きあった少女の脚や腕のようで。そこにむすまばらな苔は病的なまでに美く。それは少女たちの柔らかい腿の付け根、あるいは硬質な緑白の骨。骨? 彼ははたと思い立ち、首飾りの骨を左手で握る。そう、骨だ。ボクは骨の恋人に会うためにカプセルを呑んだんじゃないか。そう思い立った途端、にわかにあたりが明るくなり、気が付くと彼は密林にできた小さな広場に立っていた。そしてその彼の隣に、骨の恋人が、居た。
「てっきり木の根だと思っていたよ」彼は少しはにかんで言った。「嘘。骨だと思ったんでしょ?」彼女は悪戯っぽく笑った。「だってあなたは骨の捕集人、骨を集めるのが生きる意味の人だもの。生身の人間に恋するなんてまったくおかしいわ」