01_バロネット卿 01-02

「今、君のかかえている案件は?」

「トカラの詐欺事件です」

「それはロジーに引き継いでくれ」

 いぶかし気に首をかしげるポールに、ヴァンダーウォールは先ほどの手紙と写真を手渡した。

「キミにはキリバスに飛んでもらう。バロネット卿は安易に考えておられるようだが、卿だけでは娘の出国もままならないであろう。現場に行って万事手配をしてほしい」

「旅費は?」

「バロネット卿の仕事でお金の心配は必要ない。使用した経費を書いておけばいい」

「かしこまりました」

ポールは自分の席に戻り、机に広げていた書類をまとめて隣の席に座るロジーに簡単な説明をしながら手渡した。そしてそのままマンションに帰り、ボストンバッグに着替えを入れて空港へと向かった。バロネット卿がこの時すでに亡くなっていようとは、まさか、誰が想像できたであろうか。

 

 バロネット卿がバロネット(准男爵)とあだ名されるようになった所以はその生まれにあるが、それは決して恵まれたものではなかった。なぜなら彼の生まれた一九〇〇年、一族はすでに没落し、商売下手の父が抵当に入れた先祖代々の土地は、すべて銀行の所有となっていたからである。