ボーンコレクター 01-03

 三つの錠剤は、いずれもその形態は同じカプセルであったが中身は若干違っていた。一つはエラブウミヘビのような鮮やかな蒼色、一つはクロクビコブラのような艶やかな黒色、一つはモウドクフキヤガエルのような禍々しい金色。彼は三つをの錠剤をしばらく見比べて、金色のものを手に取った。

「もしこれがモウドクフキヤガエルをすり潰した粉末ならば、その毒はバトラコトキシン。最強最悪と言われる神経毒で、もし体内に取り込んだとすると、ボクは十分も待たず死んでゆくことになるだろう。えい、ままよ。面白いじゃないか。よし、試しにこれを飲んでやろう」

 首飾りの骨を左手に握りしめ、彼は錠剤を一粒つまみおもむろにゴクリと呑みこんだ。まるで蛇がカエルを呑むように。そしてしばらく待った。三分が過ぎ、五分が過ぎ、やがて十分が過ぎた。何も起こらなかった。

 彼は残りの錠剤をポケットにしまい、勘定を済ませて店を出た。酒は一滴も飲めず、骨付きカルビは一口も食べられなかったが、彼はそれでもいいと思った。

「あのひげ男がたとえ詐欺師であったとしても、奪われたのは所詮日本酒とカルビだけだ。それに引き換えこの奇妙な錠剤はどうだ。まるでロマンじゃないか? だって想像してごらんよ。あのひげ面の男が薬研でゴリゴリと蛙や蛇をすり潰して、それをカプセルに詰め込んでいるところを。ボクはこのロマンのためなら一万円払ったって惜しくないさ」

 まるで負け惜しみのような言葉をつぶやきながら彼は夜の街を歩いた。