七夕は、織姫と彦星が一年に一度だけ天の川を渡って出会うというロマンチックな伝説に彩られた、日本の美しい年中行事です。短冊に願い事を書き、笹の葉に飾る──。子供の頃、あの色とりどりの短冊と、夜空を見上げる瞬間のワクワクした気持ちは、今でも鮮明に覚えています。しかし、七夕の物語には、単なる恋物語以上の奥深さがあることをご存じでしょうか。
星信仰と妙見信仰の繋がり
七夕のルーツをたどると、中国の星信仰に行き着きます。牽牛星(彦星)と織女星(織姫)は、元々農業と機織りを司る星として信仰されていました。それが日本に伝わり、乞巧奠(きこうでん)という針仕事の上達を願う行事と結びつき、現在の七夕の形になったと言われています。
そして、ここで登場するのが「妙見信仰」です。妙見菩薩は、北極星を神格化したもので、古くから航海の安全や国土の守護、病気平癒など、人々の様々な願いを叶える存在として信仰されてきました。北極星は常に天の中心に位置し、他の星がその周りを回ることから、「宇宙の帝王」とも呼ばれ、強い霊力を持つとされてきたのです。
七夕と妙見信仰の重なり
一見すると、ロマンチックな七夕と、どこか厳かな妙見信仰は異なるものに思えるかもしれません。しかし、どちらも「星」への信仰という点で深く繋がっています。
七夕の夜、私たちは天の川に輝く織姫と彦星に想いを馳せ、願い事をします。それは、遠く離れた星に、自分たちの手の届かない大きな力に、希望を託す行為です。妙見信仰もまた、人々が自身の力だけではどうにもならない困難に直面した時、北極星という揺るぎない存在に救いを求める、切実な願いの現れと言えるでしょう。
願いを込めるということ
七夕の短冊に書く願い事は、子供の頃は「おもちゃが欲しい」や「足が速くなりたい」といったたわいもないものでした。しかし、大人になるにつれて、願いはより複雑に、そして切実なものに変わっていきます。「家族が健康でありますように」「仕事がうまくいきますように」。それは、時に自分自身のためだけでなく、大切な人の幸せを願う気持ちへと広がっていきます。
妙見信仰においても、人々は厄除けや開運を願い、ひいては世の中の平和を願いました。個人の小さな願いも、やがて大きな祈りへと繋がっていく──。七夕も妙見信仰も、その根底には、人々の健やかなる生活や幸福を願う普遍的な心が息づいているのです。
今年の七夕の夜、空を見上げてみてください。そこに輝く星々に、あなたはどんな願いを託しますか?そして、その願いが、遠い昔から人々が星に抱いてきた祈りと、どこかで繋がっていることを感じてみてはいかがでしょうか。