竹谷乗願坊、東二条院へ参られたりけるに、「亡者の追善には、何事か勝利多き」と尋ねさせ給ひければ、「光明真言・宝篋印陀羅尼」と申されたりけるを、弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。念仏に勝る事候ふまじとは、など申し給はぬぞ」と申しければ、「我が宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、正しく、称名を追福に修して巨益あるべしと説ける経文を見及ばねば、何に見えたるぞと重ねて問はせ給はば、いかが申さんと思ひて、本経の確かなるにつきて、この真言・陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。
-- 徒然草 222 --