第五十四段 御室にいみじき児のありけるを

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

御室にいみじき児のありけるを、いかで誘ひ出して遊ばんと企む法師どもありて、能のあるあそび法師どもなどかたらひて、風流の破子やうの物、ねんごろにいとなみ出でて、箱風情の物にしたため入れて、御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。

うれしと思ひて、ここ・かしこ遊び廻りて、ありつる苔のむしろに並み居て、「いたうこそ困じにたれ」、「あはれ、紅葉を焼かん人もがな」、「験あらん僧達、祈り試みられよ」など言ひしろひて、埋みつる木の下に向きて、数珠おし摩り、印ことことしく結び出でなどして、いらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。所の違ひたるにやとて、掘らぬ所もなく山をあされども、なかりけり。埋みけるを人の見置きて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。法師ども、言の葉なくて、聞きにくくいさかひ、腹立ちて帰りにけり。

あまり興あらんとする事は、必ずあいなきものなり。

-- 徒然草 054 --

IMG_2941.jpg