幽境秘譚 00-01『プロローグ』
インドには偉い三柱の神様がいらして、それぞれ破壊と創造と維持を担当している。まずブラフマーの神様が世界を創造し、それを維持の神様ヴィシュヌが守り、やがて世界が飽和状態に陥ると破壊の神様シヴァが出てきて、世界を滅茶苦茶に破壊する。そうして壊れた空間に再びブラフマーが世界を創り、それをヴィシュヌが維持して、世界は平和に保たれるわけであるが、時間が経てば劣化するのは世界もミカンも一緒のことで、いや、ほら、ミカンを長いこと皿の上に置いておけば、そのうち腐ってくるだろう? まあそれと同じことで、世界というものも長い間放置すれば、ヴィシュヌ神がいくら努力して維持してもやっぱり腐ってくるわけで、そうして世界が腐るとまた破壊の神様、シヴァの出番となるのである。そんなこんなでこの三柱の神様は長い間、世界を壊したり創ったり、それを維持したりしながら、気の遠くなるほど長い時間を過ごして来たのであけれど、ある時、シヴァの神様が大あくびをして言った。「我々はこれまで手順通りに破壊と創造と維持を繰り返してきた。しかし少々飽きてきた。ということで、今回は少し我々の役目を入れ替えてみてはどうであろう?」創造の神様ブラフマーが眉をピクリと動かして言った。「なんだい、役目を変えるって? それは面白そうではないか」するとヴィシュヌ神が渋い顔をして、「面倒は嫌だ。私の担当は維持することだから、とかく変化は好まぬ」と口を尖らせた。シヴァは鼻を鳴らしてヴィシュヌを見て、「おや、自信がないのかい?」と少し嘲るように笑った。ヴィシュヌはカッと目を見開き、「自信がないとは言っていない」とムキになった。「じゃあ決まりだな?」とシヴァはニヤリと笑った。