十三番目の殺人 問題編01

 殺された玄宗和尚は傷口より流れ出た自らの血で床にB(アルファベットのB)のような文字を書き残した。犯人はそれに気づき足の裏で拭き消したようであるが、その消し方は雑でいい加減であった。名探偵はその中途半端に消されたダイイングメッセージをしげしげと眺めたあと、三人の容疑者、土浦麟太郎・円山一・名取雲慶の顔を代わる代わる見回し、「玄宗和尚を殺した犯人はこの中にいます」と宣言するように言った。それを横で聞いた警部は、「アルファベットのB? あんた、こんなもんだけで犯人がわかるのですかい?」と驚いて口をはさんだ。三人の容疑者は不平そうに口を尖らせた。「何が名探偵だ」とまず土浦が吐き捨てるように言い、「俺たちの中、アルファベットがBで始まる奴はいません」と円山が続け、さらに名取が、「アルファベットのBが含まれる名前もないね」と付け加えた。警部はペンを取り出してせっせと紙にアルファベットで名前を書き、「なるほど、三人のうちBの文字を持つものはいないな」と唸った。それから床に書かれた文字を模写し、「Bと見るには字画の間が少し離れている気もするな。ひょっとするとこれはIとWを組み合わせたものとか、シグマのような記号とかかも知れんな?」とその図を名探偵に見せた。名探偵はそれを受け取り、人差し指を左右にチッチと振ってから、「そんなに難しく考えないで。もっと単純に見てください」と笑った。そして改めて警部の描いたBの横に数字の一と三、つまり十三と書いて戻した。警部はアッと驚いて、今一度床に書かれた文字を見た。言われてみると、それは確かに十三であった。「ということはつまり犯人は十三の男と言うわけですな」警部の言葉に名探偵は頷いた。