アングラ劇『犬神ぢごく変』 15-01
第十五幕
村はずれの空き地。村人をかき分け村長は申秀をつれてくる。そして木に吊るされた伏姫がもっともよく見える場所に座らせる。申秀は伏姫を見て愕然とし立ち上がろうとするが、腕っぷしの強い若者が押さえつける。別の若者が木の下に積まれた落ち葉に火をつける。炎がたちまち燃え上がる。
村長「さあ、申秀よ。お前の地獄に連れてきてやったぞ」
申秀「そ、村長。これは?」
村長「さあ、絵を描け申秀。焼けゆく己の娘を存分に描き散らせ」
村人「煙にむせぶ娘の青白い顔を、火の粉が飛び散り乱れる髪を、燃え上る炎に焼けゆく衣装を」
村長「さあどうだ申秀。娘の肉の焦げる匂いを存分に描けばいい。金粉を散らしたような綺麗な劫火を存分に描けばよい」
伏姫「ああ、お父様」
申秀「ああ、ああ」
村人「さあ申秀、遠慮はいらん。存分に描くのだ」
村長「地獄よのう。まさに地獄よのう」
申秀「ああ、ああ」
村人「おや、何か来たぞ」
村人「すごい勢いだ。わああ」
村人「ああ、何かが太兵衛をはじきとばした」
村長「ああ、火の中に飛び込みおった」