アングラ劇『犬神ぢごく変』 11-01

   第十一幕


 村の荒れ地。地面から首だけ出された犬が、何日も餌をもらえず苦しそうに唸る。巫女は犬の前に儀式の祭壇を作り呪いの言葉をブツブツと唱える。その様子を村人たちは遠巻きに眺める。やがて大ダンビラを持たされた伏姫が犬の前に押し出される。


伏姫「ああ八房。なんという」
八房「キャウン」
村長「これも因果よ伏姫。さあ、お前の持つその大ダンビラで八房の首をひと思いに打ち落としてやれ」
伏姫「なぜこのような惨いことをせねばなりませぬか?」
巫女「先ほどもいったであろう。お前の父御に憑いた犬神と戦える犬神を生み出すためじゃ」
伏姫「父は犬神などに憑かれてはおりませぬ」
巫女「いいや。憑かれておる。ワシは神おろしの儀式ではっきりと見たのじゃ」
村長「可愛がっていた犬じゃろう? せめて最後はお前の手で犬神にしてやってくれんかのう?」
伏姫「そんな残酷なこと。私にはできませぬ」
村長「それもそうかも知れぬのう。では村役人の誰か、伏姫の代わりに」
巫女「駄目じゃ駄目じゃ。犬の首を刎ねる役目にこの娘が選ばれたのは他でもない。そのほうが強い犬神になると、神がおっしゃられたからじゃ」