アングラ劇『犬神ぢごく変』 10-02
村長「なんのなんの。哀れなのはここからじゃわい。巫女殿の言われるにはのう。その八房の首を大きなダンビラで刎ねねばならぬということじゃ」
村人「なんと。そりゃまた惨いのう」
村長「巫女殿の言われるにはの。普通の犬ならば土に埋めてから七日七晩、餌を与えず飢えさせて、それから犬の目の前にご馳走を置いたりするそうじゃ」
村人「そりゃまた可哀そうだ。さぞかし犬は悲しいじゃろう」
村長「ああ、その通り。そんな状態に置かれたら犬は狂ったように鳴き叫ぶそうじゃ。そうして犬の欲望が骨頂に達したのを見計らってズバッと一閃。その首を斬り落とすということじゃ」
村人「ひやあ。そりゃ犬も浮かばれまい」
村長「当然じゃ。犬はもう悔しいやら悲しいやら。そういった感情の塊のようになる」
村人「ああ」
村長「その怨念が首に宿って、犬神様となるんじゃよ」
村人「まあ、なんとも惨いのう」
村長「惨かろうが何だろうが、我々はそれをせねばならぬ。でなければ村はそのうち申秀に憑りついた犬神に食い滅ぼされてしまうということじゃ」
村人「伏姫は悲しむであろうのう」
村長「娘が泣こうが悲しもうが、こればかりはどうしようもあるまい。さあ、お前たちすぐに手分けして大きな穴を掘って八房を埋めるのじゃ。すべては村の平和のためじゃ」
村人「ああ、ひどいことになったもんだ」