アングラ劇『犬神ぢごく変』 08-02

村人「ああ、村長。しっかりしておくれよ。二貫文を平たく言えば二千文になるんですぞ。巫女殿は五百文で引き受けてくれると言うのに、逆に値段を吊り上げてどうするのです?」
村長「しかしそれは奴らの給金」
村人「奴らはすでに首になりけり。ということはその二貫文も村の資金と同様ではありますまいか?」
村長「ああ、なるほど。それもそうだ。よし、巫女殿、やはり五百文で神おろしをしておくれ」
巫女「よしわかった。では桃と柳の枝を持て。それに二本のしめ縄を垂らして蝋燭は一本、線香は三本。茶碗は四つでその後ろに桝を置き白米を山のように盛れ」
村長「はあ、用意でき申した」
巫女「それでは始めるとしようかのう。にーのゆみのんごいゆば ならくのぢごくに ちちぶのぢごく はなのぢごくに ちのぢごく ちややのぢごくに あきんどのぢごく ハァーーアーアーアーアーアーアーイャ しょうぢまひらせさぶらふとーやーいや」
村長「おお、巫女殿。どうなされた?」
巫女「地獄、地獄、地獄。ああ、これは地獄めぐり」
村長「地獄めぐりでございますか?」
巫女「左様、地獄めぐり。これは犬神の憑きし者の作り上げた地獄」
村長「犬神、と申しますと?」
巫女「この村に福徳稲荷の加護を受け日本一の絵師と呼ばれる男があろう。そ奴こそ犬神に憑かれし者。福徳稲荷は狐の数が足りぬため、犬神をそ奴に送り込んだのだ」