アングラ劇『犬神ぢごく変』 08-01
第八幕
村長の屋敷。二貫文と五百文を床に並べホクホク顔で眺める村役人たち。そこに巫女がふらりと現れ、両手に持つ風呂敷の中から生首をふたつ転がす。村長がおののき覗き見るとそれはトンペイ兄弟の変わり果てた姿。
村長「こ、これは一体どうしたわけじゃ?」
巫女「この二人は先ほど犬神に襲われて死んだ」
村長「なぜ首だけなのじゃ?」
巫女「身体はバラバラに引き裂かれ、食い散らかされておった。せめて首だけでも弔ってやろうと思うてのう」
村長「犬神はなぜこの両名を襲うたのだ?」
巫女「さて、それは神おろしをして見ねば分からぬが。どうじゃ? 妾に神おろしを依頼するか?」
村長「両人が首だけになっているのはまことに気味が悪い。これも乗り掛かった舟じゃと思うて巫女殿に頼むことにしよう」
巫女「では五百文、いただくぞ」
村長「なんと、お主は村の資金から五百文も取ろうというのか?」
巫女「五百文なくなっても、まだ二貫文あるではないか?」
村長「いや、しかし。これはその者たちに渡す小判で」
巫女「ではこの者どもの二貫文で神おろしを引き受けてやろうか?」
村長「ああ、そうだなあ。そういたそうかのう?」