アングラ劇『犬神ぢごく変』 07-02
村長「申秀の奴め。地獄を描くには本物の地獄が見たいと思ったのであろう、若者を安い給金で雇い入れ、それを鬼に扮した弟子たちにイジメさせたのじゃ」
伏姫「まあ」
村長「若者の訴えは恐ろしかったぞ。血の池に放り込んだり熱湯をかけたり、ニワトリの群れをけしかけたり。いやはや、本当の地獄絵図じゃ」
伏姫「ああ、申し訳ありません。まさか父がそこまでしていようとは」
村長「しかしまあ、それはもう終わってしまったことじゃからよいわい。ここからが相談なんじゃが」
伏姫「はい」
村長「若者は安い給金でひどい目に合わされたと訴えておるわけじゃから。まあ、ここはひとつ金で解決してはどうかと思ってのう」
伏姫「それでよろしければ」
村長「うむうむ。お主は物分かりが良いので助かる。では地獄変の前払いから、いま少し奴らに給金を支払ってやってはくれまいか?」
伏姫「いかほどにすればよろしいでしょうか?」
村長「さてさて、奴らそれぞれに一貫文くらいでどうかのう」
伏姫「ああ、それならなんとか都合がつきそうです」
村長「では、奴らにはそれで話をつけるとして。言いにくいことじゃが、ワシらもこうして口利きにきたことであるし。村にも少し金を入れてもらおうかのう?」
伏姫「それはいかほどで?」
村長「奴らと同じ一貫文。と言いたいところじゃが、それでは少し厳しいかのう。半分の五百文で良かろうかのう」
伏姫「わかりました。ではご用意させて頂きます」
村長「お主も父御のことで苦労するのう。まあ、これも宿世だと思って、気を悪くしなさんなよ」
伏姫「このたびは村長さんにも皆さんにも多大なご迷惑をおかけしました」