アングラ劇『犬神ぢごく変』 07-01

   第七幕


 絵師申秀は古寺に籠って地獄変の制作に没頭している。屋敷は伏姫がひとり留守をしている。庭では愛犬の八房が伏姫を見守る。そこに村長たちが来て縁側に腰かける。茶と茶菓子を奥から出して伏姫も縁側に座る。


伏姫「村長さんに村役人の皆さん。おそろいでどうなさいました?」
村長「どうもこうもないわ。申秀は奥におるか?」
伏姫「それが生憎と留守でございまして」
村長「ではいつ帰ってくる?」
伏姫「あの地獄変の屏風に取り掛かってのち、父はまるでこちらに顔を見せません。ご用がおありでしたら私が伺います」
村長「あんたに言っても詮無き事。しかし申秀が留守とあらば是非もない」
伏姫「はあ」
村長「実は先だって、お主の父の工房から逃げ出して来た若者がおってのう。それが喧しく言い立てるのじゃ」
伏姫「何をでございますか?」
村長「お主は知らぬかもしれぬが、お主の父の工房。それが地獄さながらであるというのじゃ」
伏姫「地獄そのもの、と言いますと?」