アングラ劇『犬神ぢごく変』 05-01
第五幕
地獄の亡者に採用されたトンペイ兄弟。職場である古寺の門をくぐると、真っ赤な血池に針の山とそこはまさに地獄絵さながら。境内の風景におののく二人の前に筆と紙を持った絵師申秀が獄卒を引き連れてやってくる。
東一「絵師の先生、こりゃ本当に恐ろしげな地獄をおつくりになったのですね?」
平吉「まさに、まさに。これぞ本当の地獄です」
申秀「いや、まだまだ。ここで亡者が苦しんでこそ本当の地獄になるというもんじゃ」
東一「苦しむ亡者というと?」
平吉「それはひょっとして?」
申秀「ひょっとするもしないもない。つまりお前たちではないか。さあ、存分に苦しんでくれたまえ。ワシはその様子を描く」
東一「苦しめと言われましても。わあ、何をするんだ」
獄卒「暴れてはいけません。ちゃんと縛られてください」
平吉「だって縛られたら手足が出せないじゃないか?」
獄卒「手足を出してはいけません。あなたたちを縛って痛い目に合わせて。それで苦しそうな表情をするところをお師匠様がお描きになるのですから」
東一「そんな。わあ、なんだその気味の悪い鳥たちは?」