アングラ劇『犬神ぢごく変』 03-02
申秀「そしてさらに腐敗は進み、娘の皮膚も壊死をする。これが壊相(えそう)というわけですぞ」
大尽「腐った皮膚のあちこちが破れ、血やら体液が流れ出る。まさにこれは血塗相(けちずそう)」
申秀「やがて肉そのものが腐り、溶けだしてくるのが膿爛相(のうらんそう)」
大尽「血の気のなくなった死体は青黒くなる。それが青瘀相(しょうおそう)」
申秀「死体に蛆虫がわいたり、鳥や獣に食い荒らされたり。それが噉相(たんそう)ですぞ」
大尽「食い散らかされた死体はバラバラ、それで散相(さんそう)じゃな」
申秀「肉が腐ってもうすっかり骨だけとなって、これで骨相(こつそう)というわけです」
大尽「それが焼かれて埋葬されて、五輪塔に葬られる。焼相(しょうそう)というわけじゃな」
申秀「蔵持の大尽さん。あんたもなかなかお詳しいですな」
大尽「ワシはこのような絵が好きでなあ。この腐りゆく娘を見ているとまるで心が浄化されていくような心持ちになるんじゃよ」
申秀「ほんと、お好きなんですなあ」
大尽「さあ、そこで。ものは相談なんじゃがな。そなたひとつ大物を描いてはくれんかのう?」
申秀「大物、と申しますと?」
大尽「地獄変の屏風をお願いしたいんじゃ」
申秀「地獄変ですとな?」