アングラ劇『犬神ぢごく変』 03-01

   第三幕


 都の大邸宅、蔵持の大尽の御殿によばれて申秀は出向く。女中に案内されて申秀は恐る恐る座敷に入る。みると壁にはずらりと九相図が掛けられ、大尽はその横でご満悦の表情。申秀、その前にペタリと座る。


大尽「そなたがこの軸を描いた絵師か?」
申秀「ははあ。恐れ多いことにございます。茶房が売れたと申しておりましたが、まさか、蔵持の大尽様がお求めくださっていたとは」
大尽「まあ、そう畏まらなくとも良い。先日茶房に出向くとこの軸の一幅が飾られていてのう。まったくたまげたんじゃよ。それで店主に頼みこんで九幅すべて揃えてもらって。今ここにあるというわけじゃ」
申秀「ははあ。恐れ多いことでございます」
大尽「いちいち畏まらなくともよい。話しづらくなるではないか。もっとざっくばらんに。のう? ワシはそなたを日本一の絵師と見込んだのじゃ。それらしく振舞ってもらわねば困る」
申秀「さ、さそうでございますか大尽様? ではざっくばらんにやらせてもらいやしょう。いや、大尽大尽、お前さんは見る目のある方じゃ」
大尽「いきなり砕けてきたな? まあ良いまあ良い。早速一緒に絵を見ていこう。肉体が腐敗して膨れ上がる。ああ、これが脹相(ちょうそう)じゃのう」