天魔(てんま)が八幡(やはた)に申(まう)すこと、頭(かしら)の髪(かみ)こそ前世の報(ほう)にて生(を)いざらめ、そは生(お)いずとも、絹葢(きぬがさ)長幣(ながぬさ)なども奉(たてまつ)らん、咒師(ずし)の松犬(まついぬ)とたぐひせよ、しないたまへ。
-- 梁塵秘抄 337 --
KOMUSUI ICHIZA KAMISHIBAI
天魔(てんま)が八幡(やはた)に申(まう)すこと、頭(かしら)の髪(かみ)こそ前世の報(ほう)にて生(を)いざらめ、そは生(お)いずとも、絹葢(きぬがさ)長幣(ながぬさ)なども奉(たてまつ)らん、咒師(ずし)の松犬(まついぬ)とたぐひせよ、しないたまへ。
-- 梁塵秘抄 337 --
百日百夜は独り寝と、人の夜夫(よづま)はいなじせうに、欲しからず、宵より夜半(よなか)まではよけれども、暁(あかつき)鶏(とり)鳴けば床(とこ)さびし。
-- 梁塵秘抄 336 --
思(おも)ひは陸奥(みちのく)に、恋(こひ)は駿河(するが)に通(かよ)ふ也、見初めざりせばなかなかに、空に忘れて已(や)みなまし。
-- 梁塵秘抄 335 --
常(つね)に恋(こひ)するは、空には織女(たなばた)流星(よばひぼし)、野辺(のべ)には山鳥(やまどり)秋は鹿(しか)、流(ながれ)の君達(きうたち)冬は鴛鴦(をし)。
-- 梁塵秘抄 334 --
心の澄(す)むものは、霞(かすみ)花園(はなぞの)夜半(よは)の月、秋(あき)の野辺(のべ)、上下も分かぬは恋(こひ)の道(みち)、岩間(いはま)を漏(も)り来(く)る瀧(たき)の水(みづ)。
-- 梁塵秘抄 333 --
心(こころ)の澄(す)むものは、秋は山田(やまだ)の庵毎(いをごと)に、鹿(しか)驚(おど)かすてふ引板(ひた)の声(こゑ)、衣(ころも)しで打(う)つ槌(つち)の音(おと)。
-- 梁塵秘抄 332 --
をかしく舞ふものは、巫(かうなぎ)小楢葉(こならは)車(くるま)の筒(どう)とかや、平等院なる水車(みづぐるま)、はやせば舞い出(い)づる螳螂(いぼうじり)蝸牛(かたつぶり)。
-- 梁塵秘抄 331 --
よくよくめでたく舞ふものは、巫(かうなぎ)小楢葉(こならは)車(くるま)の筒(どう)とかや、やちくま侏儒(ひき)舞手(まひて)傀儡(くぐつ)、花の園には蝶(てう)小鳥(ことり)。
-- 梁塵秘抄 330 --
筑紫(つくし)なんなるや、唐(もろこし)の金(かね)、白ろといふ金(かね)もあんなるは、ありと聞く、それを合(あ)せて造(つく)りたる、阿古屋(あこや)の玉壺様(たまつぼやう)かりな。
-- 梁塵秘抄 329 --
筑紫(つくし)の門司(もじ)の関(せき)、関の関守(せきもり)老(お)いにけり、鬢(びん)白し、何とて据(す)ゑたる関の関屋の関守なれば、年の行(ゆ)くのをば留めざるなん。
-- 梁塵秘抄 328 --
武者(むさ)を好(この)まば小胡簶(こやなぐひ)、狩(かり)を好(この)まば綾藺笠(あやゐがさ)、捲(まく)り上げて、梓(あづさ)の真弓(まゆみ)を肩にかけ、軍(いくさ)遊(あそ)びをよ軍神(いくさがみ)。
-- 梁塵秘抄 327 --
これより東(ひむがし)は何(なん)とかや、関山(せきやま)関寺(せきでら)大津(おほつ)の三井(みゐ)のおろし、いまおろし、石田殿(いしだどの)、粟津(あはづ)石山(いしやま)国分(こくぶん)や、瀬田(せた)の橋(はし)、千(せん)の松原(まつはら)竹生島(ちくぶじま)。
-- 梁塵秘抄 326 --
近江(あふみ)におかしき歌枕(うたまくら)、老曽轟(おいそとどろき)、蒲生野布施(がまうのふせ)の池、安吉(あき)の橋、伊香具野余吾(いかごのよご)の湖(うみ)の滋賀の浦に、新羅(しらぎ)が立てたりし持仏堂の金(かね)の柱(はしら)。
-- 梁塵秘抄 325 --
鈴(すず)は亮(さや)振る藤太巫女(みこ)、目より上(かみ)にぞ鈴は振る、ゆらゆらと振上げて、目より下(しも)にて鈴振れば、懈怠(けたい)なりとて、忌々(ゆゆ)し、神(かみ)腹立ちたまふ。
-- 梁塵秘抄 324 --
山の調(しらめ)は桜人、海の調(しらめ)は波の音、又島廻るよな、巫女(きね)が集(つど)ひは中の宮、化粧(けさう)遣戸(やりど)は此処(ここ)ぞかし。
-- 梁塵秘抄 323 --
お前(まへ)の遣水(やりみづ)に、妙(めう)さちこむほうなる砂(いさご)あり、真砂(まさご)あり、砂(いさご)の真砂(まさご)の半(はん)天の巌(いはほ)とならん世まで、君(きみ)はおはしませ。
-- 梁塵秘抄 322 --
須弥を遙(はるか)に照(て)らす月、蓮(はちす)の池(いけ)にぞ宿(やど)るめる、ほうくわう渚(なぎさ)に寄る亀は、劫(こう)を経てこそ遊ぶなれ。
-- 梁塵秘抄 321 --
黄金(こがね)の中山(なかやま)に、鶴と亀とは物語、仙人童(わらは)の密(ひそか)に立聞(たちき)けば、殿(との)は受領になり給(たま)ふ。
-- 梁塵秘抄 320 --
海には万劫亀遊ぶ、蓬莱山をや戴ける、仙人童(わらは)を鶴にのせて、太子を迎へて遊ばばや。
-- 梁塵秘抄 319 --
海には万劫(まんごう)亀遊ぶ、蓬莱(ほうらい)方丈(はうぢゃう)瀛州(えいしう)、この三(みつ)の山をぞ戴(いただ)ける、巌(いはほ)に練(れん)ずる亀の齢(よはひ)をば、譲(ゆづ)る譲る君に皆譲る。
-- 梁塵秘抄 318 --