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日本史の教科書で見ると、人類は猿人、原人、旧人、新人の順番で出現したと言われている。

日本列島で発見された化石人骨はすべて新人段階のものである。

(日本列島は火山列島の酸性土壌なので人骨や獣骨が化石となって残る例は少ない。以下はそんな中、かろうじて残っていた新石器時代以前の人骨化石である)浜北人-静岡(約1万4千年から1万8千年前)、港川人-沖縄(約2万2千年前)、山下町洞人-沖縄(約3万2千年前)、等々。(明石人はかつて明石原人であると言われていたが新人であることが判明したとのこと)

ちなみに日本列島のナウマンゾウは約2万年前に絶滅したとされる。その化石と共に旧石器時代の石器や骨器が発見されているので、2万年前の縄文人はナウマンゾウなどを狩って食べていたことが伺われる。

日本人がどこから来たのかはきっちり断定できないが、港川人は南方系とされ、日本列島の後期旧石器人の縄文人は南アジアから来たという説が有力である。ただし文化の面では北方系の要素も強く認められる。

「日本人はアジア大陸に古くから住んでいた人々の子孫(縄文人)と、もともとは北アジアに住んでいて弥生時代以降に渡来した人々の混血によって形成されたと考えられる」と教科書には書いてある。

このアジア大陸に古くから住んでいた人々とは、「アルタイ語族」を念頭に置いて書かれたものであろう。下の注釈にもアルタイ語系の言葉が見える。「アジア人は数万年前にアフリカから出た東南アジア人と3から2万年前に北アジアの寒冷な気候に適応した北東アジア人にわけられる。日本語の語法はアルタイ語系に属する。」云々。しかしアジアの人々の共通の祖先、アルタイ語族の仮説は1960年代まで一世風靡していたが、現在の言語学会では一般に認められていないものとなっている。教科書がその古い仮説の一つの概念「アルタイ語系」で日本人の祖先を縛ろうとするので諸所にひずみができてくる。地質学で否定されても、氷河期にはどうしても陸続きにならなければいけないし、日本人の祖先は大陸から歩いて渡ってこなければならなくなる。舟が許せなくなるわけである。

言語に関して言うなれば、「日本語」は同系統言語の存在が証明されていない「孤立した言語」というのが実際のところであろう。他の言語と部分的には似ているところもあるが、日本語は孤立した言語なのである。アルタイ語系を載せるのであらば、朝鮮語同系説、オーストロネシア同型説、ドラヴィダ語族タミル語説など他の仮説も同じ俎上に乗せて紹介するのが教科書としての正しい姿勢ではないであろうか。

日本列島と日本人の最後の行は「北海道のアイヌの人々や沖縄南西諸島の人々は、より強く縄文人の特徴を受け継いでいると考えられている。」と結ばれている。アイヌの人々は縄文時代には日本列島にいなかった可能性の高い民族であるが、絶対に縄文人でないとは言い切れないので、まあ良いこととする。

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イラスト:堂野こむすい va1907-002 『舟に乗って』


日本列島の誕生

教科書によると、「日本列島が今と近い形となったのは、およそ1万年前。更新世が完新世となった頃」である。

「更新世とは氷河期で、氷河期の頃は寒冷な氷期と比較的温暖な間氷期が交互に繰り返して訪れていた。海面は著しく下降し、少なくとも二回、日本列島とアジア大陸は地続きとなり、アジア大陸からトウヨウゾウやナウマンゾウがやってきた。人類もそれを追って大陸からやってきた可能性がある」としている。

しかし次のページには、岩宿遺跡の記述もあるし、更新世末期(約2万年前)の陸続きでない日本列島の地図もあるのでフェアな感じもする。

教科書の出だしは、「日本列島の歴史はおよそ1万年前から始まった」と、読み手に誤解をさせそうなものであるが、ちゃんと読めばそうではないことがわかる。

間違ったことを書きたくないという編集者の誠実さが伝わってくるのは、日本史教科書の良い点であろう。

そう鑑みて改めて教科書の冒頭を要約すると「人類が誕生したのは今からおよそ700万年前で、そこから1万年前ぐらいまで間に日本列島に人が来た」となる。

「700万年前」から「1万年前」の間に入れられた「更新世」だの「完新世」だのは読み手を迷わすためのブラフのように見える。

教科書は概ね間違っていない。読んで勘違いした読み手のほうが悪いのである。

ただ、「700万年前」から「1万年前」では幅が広すぎるのでもう少しこの間を狭めてみよう。

まず教科書に書かれなかった事実として、日本が現在と近い孤島となったのは500万年前で、その500万年前以降、氷河期で水面が低下した時も津軽海峡と対馬海峡は陸続きになっていなかった、という研究結果がある。北海道とサハリンは陸続きになった。しかし津軽海峡と対馬海峡の間はつながっていないのである。日本列島と大きく括る場合、確かに北海道は日本であるしサハリンは大陸である。確かに陸続きにもなった。間違いではないけれど、日本列島が大陸と陸続きになったという記述は少し大きすぎる表現ではなかろうか。嘘は言っていないが勘違いされるために書かれた表現のようでもある。

きちんと記述するならば、日本列島の本土が孤島となったのは今から約500万年前で、それ以降、本土はずっと孤島のままである。

これを考慮に入れると、日本列島に人類がやってきたのは(地続きの地面を大陸から歩いてきたと考えた場合)700万年前から500万年前くらいの間となる。

しかし現生人類が誕生したのはアフリカ単一起源説によると20万年前となる。500万年前、日本列島が孤島になった時、まだ現生人類は存在していなかった。(猿人の時代である)

人類が日本列島にやってきた方法について教科書は陸路説をとりながらもひどく歯切れが悪いのはこういった理由からであろう。

アフリカ単一起源説を採用する限り、日本人の祖先は舟で来たということはほぼ間違いない。(舟が見つからないという理由で学会では少数派の説であるが)

等々、考慮に入れて教科書の記述を少し手直しをしてみると、「人類が誕生したのはおよそ700万年前である(ただし猿人)。日本列島が孤島となったのは約500万年前、その後、氷河期にも陸続きにならなかった。現生人類である新人が現れたのは約20万年前で、日本列島で最古と思われる遺跡が約11万年前の出雲の砂原遺跡であるとすると。20万年前にアフリカに出現した人類は世界各地に散らばってゆき、11万年以前に地続きでない日本列島にも到着したということである。手段が舟であったかどうかは不明(舟が見つかっていない)。陸続きでないから象を追って歩いて来たという説も少し考えにくい(象に乗ってきたのなら素敵、ロマンチックだなあ)」といったところであろうか。

氷期に関しては歴史とあまり関係がなさそうなので本来ならば割愛したい。

しかし教科書に書いてある以上、テストに出ないという保証はないので、ここでは日本列島と関係なく地質学的な見地からの記述のみしておく。

更新世と完新世の境目は約1万年前。更新世は氷河期ともよばれている。氷河期には寒冷な氷期と比較的温暖な間氷期が繰り返しおとずれた。氷期には海面が下降した。

氷期にはギュンツ氷期、ミンデル氷期、リス氷期、ヴュルム氷期などがあるが、日本列島の人類と関係ありそうな氷期はリス氷期(約25万年から12万年前)とヴュルム氷期(約7万年から1万年前)であろう。

歴史とは本来、文字で記された人類の過去の出来事を記すものであったが、いつの頃からか地質学や考古学もその中に組み込まれるようになった。

氷期が歴史と関係ないと書いたのはそのような理由からである。

ただ実際に歴史の教科書に氷期の記述もあるし、正しいとか間違っているとかではなく、今はそういう時代なので、ただそういうものとして記しておく。

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イラスト:堂野こむすい va1907-001 『象に乗って』